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２・昼食時のとき

ランチ会場は決まって外のレストランになり、予定されている時間は約１時間です。この時間を同じテーブルで客同士が、黙って食事をするのは大変苦痛です。

なので皆喋ります。

そこで昼食の時刻といえば、観光の旅程によってマチマチになるが、大方は午前中に１，２箇所の観光を終えた後、もしくは長距離移動後となります。

このため話題は観光して来た名所旧跡の感想や、ガイドのこと、土産物のことで展開します。

私たちのテーブルでのコミュニケーションはこのようなものです。

「あの現地日本人ガイドは、ほんまにやる気があるのんかいな、もうちょっと真剣にやらんとあかんわな」

「そうや、詳しいガイド内容よりか笑顔がなかったらそら、あきまへんわな」

「そうですよ、歴史の勉強しに来たんとちゃいますから、リラックスが一番ですわ」

「私は昨年トルコに行ったとき、現地ガイドは一生懸命詳細に説明してくれるのですけど、考古学の勉強みたいで肩が凝って、多少は現地のジョークがある方がウケると思うんですけどね。真面目なガイドさんでしたけどね」

「その点、今回の添乗員はなかなかジョークがあってリラックスできてよろしいなあ」

「そうそう、ジョークもタイミングが大事で、マニュアルを読んでいるような調子ではあきまへん。声も生き生きしてんと、これも経験でっしゃろ」

「添乗員が言うてた、アヴィニョン橋の上での踊りがなくなって、ちょっと寂しかったですね」

「ガイドの体調が良くて踊りを要求されていたら、踊っていたんやろうか、ほんまに」

「私ら若い頃にはダンスホールでよく踊っていましたから、そら大丈夫ですがな、任かしといてほしかったけどなあ」

「何言うてるのん、あんたはアルコールが入らんと踊ったりせえへんくせに。それもスナックのネエチャンばっかりではあかんわー」

「私なんかは中学生のときに初めてホークダンスで女の子の手に触れて、この黒い顔が赤くなったのを覚えていますけどね」

「おたくはしきりに写真とビデオを撮って二刀流で忙しい観光ですな」

「カメラに収めるのが好きでね、帰国して整理するときには半分くらいはボツにしますけどね」

「撮った写真の整理はキッチリしてはりますか、私なんかは撮ると安心してしもて、帰ってもなかなか整理せんと置いときますねん。それを忘れて次の旅行のときに慌てて整理することがありますわ」

「今はデジタルやから自分でプリントも出来るし、便利で良いけど現像屋さんは仕事が無くなって、潰れてるのんと違いますか」

「いや、それはそれで仕事はあるみたいですよ、何か記念写真とかあるものはやっぱり専門家に任さんとあきませんのでね」

「私なんかはこの歳になると、もう記念写真の必要性はないので関心はないけど�
�今度お世話になるときは遺影のときしかありませんわ」

「何を縁起でもないことを言うてんのん、困った人やわ」

「いやいや、こんなこと言うてる人ほどなかなかその写真は要りませんよ」

これがコミュニケーションの一部で、結局は何の話からこのようになってきたのか、そのプロセスに論理性の欠けらもありません。けれどその方が食事のときの話として面白いというか、嫌な印象を残さないことになります。 

  アヴィニョン橋

新古本書店​

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